朝だった。
月はいた。
それがまず気に入らなかった。
月は空を見た。
明るい。
右を見た。
明るい。
左を見た。
やっぱり明るい。
「おい」
返事はない。
「おい、白いやつ」
返事はない。
白いものはいなかった。
代わりに朝がある。
月は少し考えた。
白いものが割れた。
白が落ちた。
朝になった。
つまり。
「お前か」
朝は何も言わない。
月は朝のまわりを一周した。
できなかった。
朝には端がなかった。
右へ行っても朝。
左へ行っても朝。
上も朝。
下にも朝があった。
月は腹が立ってきた。
「中、見せろよ」
朝は何も言わない。
月は朝を叩いた。
手応えがない。
もう一度叩いた。
やっぱりない。
「殻は?」
ない。
「穴は?」
ない。
月は困った。
割れない。
覗けない。
乗れない。
ころころもしない。
昨日の夜なら、道を作れた。
白いものなら、上に乗れた。
穴があれば、その先へ行けた。
でも朝には、その先がない。
どこまで行っても朝だった。
月はしばらく黙った。
それから言った。
「じゃあ、夜に戻す」
遠くでドーナツが聞いていた。
あらら。
月は空へ上がった。
高く。
もっと高く。
自分が夜の真ん中にいた頃の高さまで。
そこから朝を見下ろした。
「暗くなれ」
朝は明るい。
「暗くなれって」
明るい。
月はもっと光った。
朝より光れば、朝を消せると思った。
ものすごく光った。
必死で光った。
そのせいで、よく見えた。
下に町がある。
屋根がある。
道がある。
窓がある。
ひとつの窓が開いた。
誰かが顔を出した。
「あ、月」
月は止まった。
見つかった。
月は急いで雲の後ろへ隠れた。
少しして、また覗いた。
まだ朝だった。
「なんなんだよ」
月は小さく言った。
そのとき。
コツン。
何かが月の頭に当たった。
星だった。
「お前」
星は月の横を通り過ぎた。
落ちていく。
「待てよ」
月も追いかけた。
星は朝の中へ落ちた。
消えた。
月は止まった。
「入った?」
返事はない。
月は下へ行った。
探した。
右。
左。
下。
上。
どこにも星はいない。
月は朝に顔をつけた。
中を見ようとした。
見えない。
「じゃあ、割ろう」
遠くでドーナツがため息をついた。
月は聞かなかった。
朝を割る場所を探した。
右。
左。
下。
ない。
また上へ行く。
そのとき、声がした。
「何してるの?」
月が振り向いた。
白いものがいた。
「お前!」
白いものは白かった。
何事もなかったみたいに、そこにいた。
月はしばらく口を開けていた。
それから言った。
「朝になったんじゃなかったのかよ」
「なったよ」
「じゃあなんでいるんだよ」
「知らない」
月は黙った。
白いものも黙った。
「お前のせいで夜がなくなった」
「うん?」
「戻せ」
「何を?」
「夜」
白いものは少し考えた。
それから、月を見た。
「夜、好きだったの?」
月は答えなかった。
白いものがころころ転がり出した。
月は見ていた。
少しして、追いかけた。
「どこ行くんだよ」
「知らない」
「またかよ」
月は白いものの上に乗れなかった。
遠くでドーナツが笑った。